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最高裁判所第一小法廷 昭和33年(オ)871号 判決

主文

原判決中、上告人に対し金員の支払いを命じた部分を破棄する。

右の部分に関し本件を大阪高等裁判所に差戻す。

その余の部分につき上告を棄却する。

前項につき上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人稲垣利雄の上告理由第一点について。

原判決の挙示する甲二号証(判決正本)によれば、原判示の勝訴判決は、昭和三一年八月二九日(同日弁論終結の記載がある)より後に言渡されたものであることが明らかであるから、昭和三一年八月七日に経由したことについて当事者間に争いのない原判示所有権移転登記が、右判決に基づいてなされたものとは到底考えられないことは所論のとおりである。

しかし、原判決は、必ずしも前記勝訴判決に基づいて本登記がなされたものと認定したわけではないし、原判決の挙示する乙一号証(登記簿謄本)によれば、右所有権移転登記は、原判示仮登記に対する本登記としてその余白に記入されていることが明らかであるから、原判決が、右所有権移転登記は前示所有権移転請求権保全の仮登記に基づく本登記としてなされたものであることが推認されるとした判断は結局において正当であるに帰し、論旨は採るを得ない。

同第二点について。

請求権保全のための仮登記といえども、これに基づく本登記がなされたときは、仮登記以後に行われた、これと相容れない中間処分の効力を否定する効果を有するものと解すべきであり(昭和八年三月二八日大審院第五民事部判決、民集一二巻三七五頁参照)、所有権移転請求権保全の仮登記以後に行われた所論賃借権の設定も、右にいう、仮登記と相容れない中間処分たるを失わないのであるから、既に同仮登記に基づく本登記がなされた以上、上告人は、右賃借権をもつて被上告人に対抗し得ないものといわなければならない。

所論は、これに反する独自の見解であるから採るを得ない。

同第三点について。

原判決が、所論金員の支払いを命じているのは、上告人に不法行為に基づく損害賠償義務があると認めた結果であると考えられる。

しかし、不法行為が成立するためには、損害が現に発生したという事実がなければならない。そして、所有権移転の本登記によつて、仮登記の時以後における、これと相容れない中間処分の効力が否定されるということは、決して仮登記の時に所有権の移転があつたという事実を擬制するのではないから、上告人の本件家屋の占拠によつて被上告人に仮に損害があつたとしても、その損害の発生は、特段の事情のないかぎり被上告人において現実に本件家屋の所有権を取得した以後でなければならない。

しかるに原判決は、被上告人が本件家屋の所有権を現実に取得した時期についてなんらこれを明らかにするところなく、漫然として上告人賃借の翌日である昭和三一年二月一日以降の損害金の支払いを命じたのは、審理不尽、理由不備の違法あるものというべく、論旨は理由があり、原判決中金員の支払を命じた部分はこの点において破棄を免れない。

よつて、民訴四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条により、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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